美しく香る、その覚悟。ゲルセミウム・エレガンスの話。

植物 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス 有毒植物

ハゴロモジャスミンにも似た香りを持つ、黄色い花を知っていますか?

ハゴロモジャスミンのつぼみはシックなピンク色をしていて、花が開くと白くなります。たくさんの小さな白い花から放たれる、バラとキンモクセイを合わせっぱなしにしたような、圧倒的に強く甘い香り。パウダリーでフローラルな、むせかえるようなうっとりする香りです。(強いので好き嫌いは分かれるかもしれません)

そのハゴロモジャスミンに似た植物を、ゲルセミウム・エレガンスといいます。ゲルセミウム・エレガンスの香りは、もう少しソフトです。そして、色こそ違え、美しい花を咲かせるのも似ているところです。

上品な名前を持つ美しく香りのよい、でも、なんだか不穏な植物、ゲルセミウム・エレガンスのお話をしましょう。

ビタミンカラーと芳香を持つ、アンタッチャブルな花

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス

この黄色い花は、形はハゴロモジャスミンに似てはいますが、香りは少し控えめ。爽やかでフルーティ、優しく上品な甘い香りです。

このよい香りの黄色い花をもつ植物、ゲルセミウム・エレガンスは、ベトナムやタイ、東南アジアや中国南部に自生しています。エレガンスという名前を持つほど、花も上品できれいです。

葉には光沢とふっくらとした厚みがあり、花の大きさは2cmくらい。5月から11月と花期も長く、自生地では決して珍しくなく普通に見かける、つる性の背の低い木です。(つる性常緑低木)

また、ハゴロモジャスミンはまったりとした白い花で、つぼみがピンク色なため遠くからみると白とピンクの混ざったような感じを受けますが、ゲルセミウム・エレガンスはつぼみも黄色いので、黄色い波が押し寄せてくるような錯覚を起こします。

ゲルセミウム・エレガンスの黄色い花は、春の訪れとともに咲きだすので、春の陽気の中で見るたくさんのビタミンカラーは、元気をくれるかもしれません。見るだけなら……

美しい花と香りの表の顔と、本気の裏の顔

ここからは、ゲルセミウム・エレガンスという植物がどんな歩みをしてきたのか、少しご紹介しようと思います。

和名はありません

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス

ゲルセミウム属の仲間、「ゲルセミウム・ランキニ」には「ランキンジャスミン」という名前が、「ゲルセミウム・センピルヴィレンス」には「カロライナ・ジャスミン」という名前があります。でも、ゲルセミウム・エレガンスには実は和名がないのです。

上記の植物は園芸用に出回っていますが、ゲルセミウム・エレガンスは日本に自生しておらず、園芸用にも出回っていません。

それは、この植物がもつ大きな特徴が由来しています。

世界トップクラスの猛毒を持つ植物なのです。

自生地の人とは長く関わってきました

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス 外用薬

ゲルセミウム・エレガンスの自生地は、インドから中国南部、ベトナムやタイなどの東南アジアです。

現地の少数民族には、害獣や猛獣を倒すための毒矢用の薬として、ゲルセミウム・エレガンスの樹液が利用されていたそうです。ゲルセミウム・エレガンスは現地では「シュア・ノーツァ(食べると死ぬもの)」とも呼ばれています。

古く中国では、ゲルセミウム・エレガンスには解熱鎮痛作用が強くあるとされ、漢方薬として使われていたという話もあります。

ムチウチやリウマチ、手足のツッパリや頭痛の緩和、特に皮膚疾患に外用として利用されていました。ただし、長時間だと肌がただれたり、水膨れができたりするので、ほんのわずかな時間のみだったようです。そして、内服は厳禁です。

実は日本にも来てました

植物 危険 有職植物 ゲルセミウム・エレガンス 冶葛 正倉院

※写真はイメージです

突然ですが、ちょっと話が飛びますね。

奈良県にある東大寺をご存じでしょうか?修学旅行で行ったなぁっていう方も多いことでしょう。その東大寺の同じ敷地内にある正倉院は、奈良時代から宝物庫として使われていました。

当時のお宝には、美術品、工芸品、5弦の琵琶などの珍しい楽器や、玉、奈良時代には非常に珍しかったガラスの入れ物なんかがありますが、漢方薬もとても大切なお宝の一つだったのです。

宝物庫で管理されるくらいな貴重品ですから、当然、薬を持ち出したりする度に、記録、管理は厳重にされていたはずでした。

正倉院には、動物性、植物性を含めた約60種類もの漢方薬が収められていました。それをまとめて記してあったのが「種々薬帳」です。(漢方薬といっても今のように粉状になっているものだけじゃなくて、木っ端とか棒っ切れみたいなものが多かったようです)

この種々薬帳の最後の60番目に、「冶葛(やかつ)」(ゲルセミウム・エレガンス?)という文字がありました。当時はこれがなんなのか、皆目わからなかった

ただ、奈良時代の法律に「冶葛は人を殺すに足る十分な毒があり、これを医療目的以外に売買、または使用してはならない」と記されていたそうです。

756年に唐から帰ってきた遣唐使が持って来たものらしく、最初約7140gありました。それが、なぜかどんどんと量が減り続け、100年後には607g、その後の記録はなくなってしまいました。

正倉院の漢方薬はたとえ皇族でも、黙って持ち出すことはできないはずなのに……

756年 7140g
758年 持ち出し記録 42g  残り7098g
761年 持ち出し記録 669g 残り6429g
779年 持ち出し記録 54g  残り6375g
この102年の間に、3908g損失
811年 残り2467g
この12年の間に、1860g損失
856年 残り607g
現在  残り390g

本来の目的は謎。本当に薬用でしたか?

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス 葉

最後の1つであった冶葛(ゲルセミウム・エレガンス?)は主に、鎮静鎮痛剤や皮膚疾患用の外用漢方薬として、日本にやってきたようでした。でも、実は、若い芽を3枚口にするだけで、死に至ると言われるもので、追加で水を一口飲めばさらに死期が早まるとまで言われるものです。

そんな、劇薬がこんなに大量に消失しているなんて、おかしいと思いませんか?でも、本当の理由は誰にもわかりません。ただ、冶葛が劇薬だったということは本当のようです。

これから先は、植物好きの空想話として聞いてください。ゲルセミウム・エレガンスはただ子孫を残すため、食べられないようにするためだけに毒を作って生きていたのに、人間が利用したのかもしれないという想像上のお話。

冶葛が日本に来た次の年、757年に「橘奈良麻呂の乱」という事件がありました。内容は難しいので、まあ、この人がクーデターを起こしかけて未遂に終わったという事件です。

この事件にかかわった443名が流刑や処刑にされたそうです。相当な人数が命を落としたことでしょう。

もちろん、この植物と事件を結びつける証拠は一切ありません。

それでも、これほど大量の冶葛が、なぜ必要だったのか。

減っていく過程が、どうして記録に残っていないのか。

そして、クーデターというのはある日唐突に露見するだけで、そのずっと前から水面下では長い長い準備期間があったと考えられます。たくさんの人が関われば……人の口に戸は立てられぬといいますね。だからこそ、当時の出来事を調べていると、さまざまな想像がふくらんでしまうのです。

なぜ、冶葛が来た翌年だったのか、想像は膨らみ、謎は深まるばかり。真相は……今も闇の中です。

千年以上成分は変わりません。私が「冶葛」です

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス ゲルセミン SMILE

冶葛。これこそが、ゲルセミウム・エレガンスではないかと研究をしていた方がいました。

千葉大学医学部教授の相見規朗氏です。

実はこの冶葛、中国では古くから「毒薬」の4種類のうちの一つとして知られていました。ところが、「冶葛」として独立して書かれることはとても少なかったのです。

「胡満蔃(こまんきょう)」「鉤吻(こうふん)」の下に別名として書かれていたり、多くの場合は「野葛」になっていたり、「断腸草」「黄藤」「火把花」「毒根」などと書かれていたりしました。

そのため、これ全部が同じ植物を指すのか、あるものとあるものが同じで全く別物も紛れ込んでいるのか、日本にこの植物がなかったこともあいまって、非常に判断に迷うこととなるのです。

何度目かの実験の結果、1996年に教授は「ゲルセミン」「コウミン」「ゲルセビリン」「センペルビリン」という4つのインドールアルカロイド(化学物質)を「冶葛」の中から発見しました。

これは、ゲルセミウム・エレガンスが自分を守るために作った、ゲルセミウム・エレガンスだけの成分。1200年以上たっても、全く成分に変化はなく、謎の薬「冶葛」はゲルセミウム・エレガンスだったと判明したのです。

長い間、いろんな名前をとっかえひっかえつけられて、いろんな属に所属させられて、人間だったら「いい加減にして頂戴っ!」、って思うところですが、ゲルセミウム・エレガンスにしてみれば、どうでもいいことなんでしょうね。

動物に特徴を覚えさせる力は、世界トップクラス

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス 牛

ゲルセミウム・エレガンスを好んで食べる動物は、まずいません。ですが、知らずに食べてしまった場合、どうなるのか?

ゲルセミウム・エレガンスの毒は、神経に強く作用します。「呼吸が苦しそう。めまいでふらついてる。力がはいらなくて動けない。舌がもつれてるな、あれ?倒れちゃった。気を失った?」知らずに食べてしまった動物は、他の動物からこんなふうに見えるのではないでしょうか。

そして、消化器官からよく吸収されるので、もどしたり、お腹を下したりしますが、かなり痛いらしい。それを表す壮絶な別名があります。「断腸草」です。

有毒植物として有名なトリカブトは体重1㎏に対して、約3~4㎎が致死量とされ、症状が出るまで数時間ほどかかることがあります。

それに対してゲルセミウム・エレガンスの致死量は、0.05㎎。たった1時間で症状がでます。

これを見ていた仲間は、どうすることもできず、あの葉っぱを食べるのはやめておこう。ということになるのです。

植物にとっては、一度でも「私は食べちゃダメのよ」と知ってもらえれば、それは先々大きな意味を持つのでしょう。

花粉は誰が運ぶの?

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス 蜂

ここまで読んでくださっている読者さんはもう、お気づきかもしれませんが、ゲルセミウム・エレガンスは、花粉にも蜜にも、毒を持っています。

でも、花粉を誰かに運んでもらわないと種ができません。ゲルセミウム・エレガンスは自家受粉(自分の花粉で種を作ること)ができないのです。

自家受粉しないための工夫もちゃんとしています。花は長桂花(ちょうけいか)と短桂花(たんけいか)という2タイプがあります。めしべの長さやおしべの位置を変えて、自分の花粉で受粉しにくくしているのです。

さて、誰が猛毒の仕込んである花粉を運ぶのか?

これはミツバチやマルハナバチの仲間に頼んでいます。「えっ普通じゃない?」と思われたと思います。私もそう思いました。ただし、ゲルセミウム・エレガンスの毒を解毒できる個体や種類、または、耐性が強い個体が、花粉を運んだり、蜜を採取したりできるのです。

実はこの蜜には、まるで秘密薬を忍ばせているかのようなお話があります。この蜜には蜂の記憶力をよくする効果があるとか、ないとか……?だから、この蜜を運んだ蜂が、またこの花へくるようにコントロールできると言われていますが、はてさて。

いちから花粉を運べる蜂を探すより、「また来て頂戴」と覚えてもらって、何度も来てもらえた方が、確実に種を作れるから安心ですよね。

種も武装しています

※写真はイメージです

優秀な蜂たちに花粉を運んでもらってせっかく作った種を、動物や鳥に食べられるなんてたまりません。ゲルセミウム・エレガンスの種にも、もれなく毒があるんだろうなとお思いの方も多いですよね。

毒があるということは、種を動物や鳥に食べてもらって、フンとして遠くへ運んでもらうことはできません。そこで、ゲルセミウム・エレガンスは、種を風に運んでもらうことにしたのです。

ゲルセミウム・エレガンスの種は楕円形(勾玉とか腎臓みたいな形)をしていて、羽のような薄い膜に包まれています。

だいたい5㎜くらいのこの種が、一つの果実の中に20個から40個入っていて、実が熟すと、風に乗って、プロペラのように遠くへ飛んでいくのです。

ゲルセミウム・エレガンスの頑なな覚悟

植物 危険 有毒植物 ゲルセミウム・エレガンス 毒つり続ける覚悟

さて。ここまでの文章で、ゲルセミウム・エレガンスが猛毒を持つ植物だということが、お分かりいただけたかと思います。

では、どうしてそこまで強い毒を作っているのでしょうか?花粉を運んでもらう蜂まで選び抜いて。

植物というのは生きていくために、防御できるものを持っています。その理由はただ一つ、自分の子孫を残し、次の世代へ命をつなぐためです。

それには、虫や動物に食べられたくないんですね。だから毒、時には針やとげ、苦みや辛味なんかを使って工夫をして生き延びます。

ちょっと難しいですが、植物の作り出す毒は、「アルカロイド」などの「窒素化合物」です。これは、毒としての役割だけでなく、植物の光合成に必要な葉緑素や、種に必要なタンパク質をつくるなど、成長するためにも大切なんです。

その、成長に必要なものを大きく割いて、猛毒を作り続ける覚悟はどこからくるのか。

これは、私の思いですが、ゲルセミウム・エレガンスは本当に本当に食べられたくないんじゃないでしょうか。絶対にどこも齧られたくない、食べさせたくない。だから、毒のドレスをまとってでも、子孫を残すために、きれいな花を咲かせて、蜜も作って生きてるんだと思います。

似ているから気を付けて

ゲルセミウム・エレガンスは日本に自生していませんが、学名に「ゲルセミウム」がつく園芸植物があります。華やかだし、きれいだけど、学名に「ゲルセミウム」がついていたら、それはもれなく、アルカロイド物質「ゲルセミン」を持っている証拠。取り扱い注意です。

カロライナ・ジャスミン

植物 危険 有毒植物 カロライナジャスミン

カロライナ・ジャスミンは学名を「ゲルセミウム・センピルヴィレンス」といいます。ゲルセミウムってついていますね。

北米原産で4月から7月にかけて、ラッパの形をした黄色い、1㎝くらいの可愛い花をたくさん咲かせます。ジャスミンに似た、甘い香りも魅力的です。

つる性なのでグランドカバーにしたり、あんどん仕立てにしたり、アーチやフェンスにしても楽しめます。花を楽しんだあとは秋に紅葉もするので、1年中楽しめる植物です。

サウスカロライナ州の州花でもある、カロライナ・ジャスミンですが、名前に「ジャスミン」がつくのとその芳香から、ジャスミンティーと間違えてしまうケースもあるそうです。

欧米では、リウマチや頭痛などの強い鎮痛作用があった、精神安定につながる鎮静効果があったと報告されたそうです(2011年)が、自分で試すのはだめ、絶対。

この、つらい症状から抜け出せるのであれば……と人を誘惑、利用して、繁栄の真っ最中?なんて……そんな風にも見えてしまいそうです。

まとめ

どの本を見ても、記事を読んでも、必ず「猛毒」という言葉が出てくる、ゲルセミウム・エレガンスのお話でした。

確かに、えげつないくらいの強さの毒で、全草を武装している植物ではあるのですが、もしかしたら、ものすごく怖がりな植物なんじゃないかと感じました。絶対に絶対に食べられたくない。

猫ってシャーって言って猫パンチしますね。あれ、怒っているというのもあるかもしれませんが、多分怖いからなんじゃないかと。

人間が食べたら死んでしまうくらいの毒。人間からしても怖いけど、ゲルセミウム・エレガンスは食べられるのがもっと怖い。だから、もしかしたら、すごくびびりな植物なんじゃないかなと思いました。

毒を持つ植物はとても多いです。でも、それは攻撃するためではなく、食べられないための防御反応。ゲルセミウム・エレガンスはその中でも、コストを知りながら猛毒を作り続ける覚悟を決めた、美しく華やかだけど臆病な植物なのでしょう。

「植物と昆虫 植物は黙っていないで反撃しますよ」こちらもどうぞ。

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