あなたのそばに植物はありますか?観葉植物でも花瓶に飾られた花でも、庭の雑草でも構いません。
植物は種が芽を出したところから、自分の力では動けない。そして、植物には必ずと言っていいほど、葉や茎、花や根や汁液を食べにくる昆虫(虫)がいます。この昆虫と関わりを持つことは、植物にとって避けられないことです。
か弱い植物は、食べられっぱなしになってしまうかもしれない・・と思いきや、実は植物は私たちが知らないところで、黙っていないでしっかり反撃しているのです。結構、強か。
食べられたら次がないように、食べられないように、食べられている最中も敵と戦っています。
しかも、敵に合わせて防御方法もたくさん用意して、準備している植物もいるのです。
この記事では、そんな植物たちの自分を守る方法や昆虫への反撃のしくみを、具体例を交えながらいろいろとご紹介します。
ぜひ、ゆっくりとのぞいていってくださいね。
※このテーマには続きがあります。
「植物はきょうもサバイバル あまりにも多い敵と交渉中」現在公開中
「植物と動物 できるだけ遠くへ運んでください」現在執筆中です。公開までお楽しみに。
「植物と植物 光、水、土、誰のもの?ときどきパラサイト」現在準備中です。しばしお待ちを。
昆虫は植物にとってやっかいな存在

植物を食べる虫というと、昆虫やその幼虫などがいます。(幼虫はイモムシですが、ここでは昆虫とひとくくりにしますね。)とくに自分で動くことのできない植物にとってこうした昆虫は、とてもやっかいな存在です。
昆虫は偏食家が多く、決まった植物ばかりを食べて生きています。同じ科の植物ならいい、という種類の昆虫もいます。
そのため、ある植物はいつも同じ昆虫を相手に、防御を続けているのです。そうなると相手も策を練って、防御を突破しようとしてきます。それに対して植物も、じゃあ、これならどうだ?とさらに防御の形を変化させなければならない。

本当に植物にとって昆虫は、やっかいな存在なのですが、こうやって同じ植物と昆虫の間でお互いに特化した進化を続けているのです。
植物は昆虫に対してどのように防御するのか、植物の防御方法にはどんな種類があるのか気になるところですね。
気が遠くなるほどの長い時間、進化し続けている植物と昆虫の間に、新参者の昆虫が入る隙なんて、ないんですね。そして、偏食家の昆虫はきょうも、自分の好きな植物だけを食べています。だから、この関係は終わらない。

ある植物とそれを食べる昆虫が、お互いに影響しあいながら特化した進化をすることを、「共進化」といいます。
昆虫にかじられたら始まる植物の「反撃」

昆虫にかじられた瞬間から植物の反撃が始まるのです。
反撃とひとことで言っても、植物の種類によって昆虫に対する反撃も、さまざまな方法があります。ここでは、静かにたたずむ植物の、意外すぎる激しい反撃方法をご紹介していきますね。
毒で身を守る

植物は動けないだけで決して弱者じゃないけれど、昆虫に食べられる植物が反撃する方法として、まずはじめに思い浮かぶのが「毒」を利用することです。
毒というと怖いイメージが強いですが、ここに出てくる植物が編み出した毒は人間には効果が少ないものも多いです。それでも人によっては反応してしまうものもあるので、注意してくださいね。
植物が作り出す毒は、虫のフェロモンやホルモンに似た物質を作って、繁殖や行動を狂わせる働きをするものが多いですが、物質的に作用するものもあります。
タバコ

ナス科の植物、タバコにはニコチンが含まれています。
ニコチンは、タバコを食べようとする昆虫に対するかなり強力な防御兵器です。有毒のアルカロイド(植物がもつ化合物)で、神経伝達機能を壊してしまう神経毒。それなのに、これを平気でむしゃむしゃと食べる昆虫がいます。それが、タバコガやタバコスズメガの幼虫です。
これらの昆虫はニコチンが体に入ってくると、腸の解毒酵素の働きを強くしてニコチンを無毒にしてしまうのです。

せっかくの防御兵器を、するっと無毒化されてしまったタバコも黙ってはいません。かじられた葉は食べられた!という情報を根に伝えます。それを受け取った根は、それならっ!と合成するニコチンの量を増やして、葉のニコチン濃度を上げるのです。
濃度の高いニコチンが含まれる葉を食べた弱い個体は、食べる量が減り成長が止まり、やがて死んでしまいます。しかし、強い個体はそれでも平気で毒の葉をもりもり食べてしまうのです。
タンポポ

タンポポの茎をぽきっと折って、綿毛をフーっと飛ばしたことがある人、いますよね。
そのときの記憶はないかもしれませんが、手がべたべたしたはずです。これはタンポポの汁液に含まれるラテックスという成分のせいなのです。
このラテックスという毒成分は、人間でもごくまれにアレルギーを起こす場合があるのでなるべく触らない方がいいと思います。

では、このラテックスが昆虫にどう働きかけるかというと、とても物理的です。
ラテックスには天然のゴム成分が含まれています。べたべたするのはそのせいです。タンポポを食べる昆虫は、アブラムシやゴミムシダマシの幼虫など多くいますが、口についたラテックスが固まって口をふさいでしまい、それ以上食べられなくするという手段です。
トマト

トマトは昆虫に葉や茎をかじられると、植物全体に食べられた!という信号がおくられます。
その瞬間から、昆虫のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)だけに働きかける、阻害タンパク質を作り出します。
これは、葉を食べ続けた昆虫が消化不良を起こし、やがて死んでしまう物質です。

また、完熟していない緑のトマトの実、葉、茎にはさらに、「トマチン」という毒成分が含まれています。これは緑のトマトの中の、成熟していない種を守るためです。一部の昆虫にはとても嫌われている成分です。
トマトが赤くなればこの成分は減っていくので、人間が食べるのに心配はいりません。緑のトマトは食べちゃダメですよ。口の中がチクチク、ひりひりするし、具合も悪くなることがありますからね。
イノコヅチ

イノコヅチの仲間は強い毒を作って、昆虫に強く対抗するのをやめた植物です。
せっかく毒を作って対抗しても、逆にその毒を利用する昆虫が出てきます。それじゃあ、作り損じゃないですか。毒をつくるのにも、植物としては体力もコストもかかるのです。なので、やられたふりをして弱い毒で対抗します。
イノコヅチは葉を食べられると、昆虫が早く成長するホルモンに似た成分を作り出します。イモムシは成長するのに何回か脱皮をくりかえすのですが、この毒は食べると昆虫の中でホルモン系がくずれて、どんどん脱皮してしまいます。

そうするとあっと言う間に成虫になって、それ以上葉をかじられなくても済むということです。
チャノハ・アカシア・ビワなど

イノコヅチのように弱い毒で対抗する植物は、多くあります。
強い毒を作り出すにはそれなりのコストがかかり、植物自身が成長したり種を作ったりするエネルギーが毒生成へ回されることも。

そこでわりとお手軽に作れる「タンニン」を利用する植物がいるのです。
タンニンというと、お茶の渋の茶色いものを思い浮かべる人も多いでしょう。人間には影響ありませんが、昆虫の消化酵素を変えてしまい、消化不良を起こさせる働きがあるのです。
強い毒ではないけれど、消化不良をおこすと「もういらない」と食欲をなくして、それ以上食べられずに済みますね。
天敵を呼んで守る

植物が自分を食べる昆虫に対して、天敵を呼んで助けを求めるということも知られています。
声の出ない植物が「た~すけて~」と天敵を呼ぶんです。
昆虫は偏食家が多いと先ほど言いましたが、植物によって食べにくる昆虫が違う、ということはその昆虫の天敵も違ってくる、ということです。
どんな植物がどんな手段で昆虫の天敵を呼ぶのか、見てみましょう。
キャベツ
ここから少々、激しめのお話になりますので、寄生虫が苦手な方はスクロールしてくださいね。

キャベツは、かじる昆虫によって呼ぶ寄生バチを変えています。
キャベツの寄生バチの呼び分け方

キャベツを食べる昆虫は、コナガの幼虫やモンシロチョウの幼虫です。
幼虫たちにかじられたときのキャベツはどうするか?
コナガ幼虫に食べられた時は、「コナガサムライコマユバチ」という寄生バチを呼び、(他にも数種類寄生バチがいますが、このハチが代表的)モンシロチョウ幼虫にかじられたときは、「アオムシコマユバチ」を呼びます。

どうやって呼び分けているかというと、それぞれの幼虫がかじった時にでる唾液と、キャベツが持つ化学成分が混ざるとSOS物質が生成されます。作る成分は同じなのですが、コナガ幼虫とモンシロチョウ幼虫では配合が違うので、作られるSOS物質の匂いが違うのです。
ここで、母コナガとコナガサムライコマユバチとモンシロチョウ幼虫のちょっとしたお話。
母コナガ、モンシロチョウ幼虫とコナガサムライコマユバチの三角関係

キャベツにはコナガ幼虫とモンシロチョウ幼虫がいます。コナガサムライコマユバチはモンシロチョウ幼虫がいるキャベツにはあまり近づきません。
コナガサムライコマユバチはコナガ1匹に対して、体の中に1つの卵を産み付けます。ですが、コナガ幼虫はとても逃げ足がはやい。一瞬でコナガ幼虫の体の中に卵を産み付けなくてはいけないんですね。
そのため、ポカヨケとしてモンシロチョウ幼虫が多いキャベツには、あまり近づかないようにしているのです。間違ってモンシロチョウ幼虫に卵をうみつけてしまったら、子どもは育ちませんからね。

このコナガサムライコマユバチの習性を母コナガは知っているので、卵を産み付けるときにはなるべく、モンシロチョウの幼虫がいるキャベツを選ぶわけです。
本題に戻りましょう。無事にコナガ幼虫に卵が産みこまれると、コナガ幼虫のなかでコナガサムライコマユバチの卵はふ化します。そしてコナガ幼虫を食べて中で排泄物をため、やがてコナガ幼虫を食い破って外へでて小さな繭を作って蛹になるのです。コナガが無事、退治されたということですね。

これに対してモンシロチョウ幼虫の天敵、アオムシコマユバチはモンシロチョウの幼虫の体の中に50個~80個の卵を産みます。おなじくモンシロチョウ幼虫のなかで卵はふ化し、成長。最終的に食い破って外で繭を作るので、モンシロチョウ幼虫はほぼ死んでしまいます。こちらもキャベツの目論見通りです。
さて。ここで、余談です。私のお話なんですが。

実は以前いただいた野菜の中に、アオムシを発見しまして。小さな透明なビンに入れて野菜を与えて、育ててたことがあるんです。アオムシって葉っぱの裏側にいつもいるはずなのに、ある程度の大きさになったら、やけに蓋としてかぶせてあったラップのあたりにいる。何度戻しても上がってきちゃって、野菜を食べなくなっちゃったんですよ。

変だなぁ・・・と思っていたら、ある日、アオムシのなかから、なんか変な違う虫が出てきた!正直、少しスプラッターでした(涙)。もう、そのあとどう処理したのか覚えていませんが、この記事を書いていてまざまざと思いだしてしまいました。
トウモロコシ

トウモロコシを食べる昆虫は、ヨトウムシです。キャベツと同じくトウモロコシはヨトウムシの唾液と自分が持つ化学物質を混ぜてSOS物質として拡散し、ヨトウムシの天敵であるサムライコマユバチなどのコマユバチ科の昆虫を呼びます。
トウモロコシの葉をカッターやハサミで傷つけても、寄生バチはやってきません。あくまでも敵である昆虫の唾液がトリガーとなるようです。

また、葉だけでなく土の中の根を食べるハムシ幼虫に対しても、同じシステムでSOS物質を出します。ハムシ幼虫へ寄生センチュウを呼んで、寄生して退治してもらうのです。
昆虫が植物をかじったときの唾液の中にある、植物の防衛反応を誘導する物質を「エリシター」といいます。植物が持っている化学物質と混ざるとSOS物質になります。これが寄生バチなどを引き寄せる「誘導反応」です。
植物は自分だけの救世主を呼んでいる

トウモロコシやキャベツだけでなく、他の植物も自分なりのSOS物質で、救世主を呼んでいます。
マメ

マメは、マメハダニやナミハダニにかじられると、「テルペノイド」というSOS物質で天敵の、チリカブリダニを呼びます。他の植物のSOS物質を感じただけでも、自分でもSOS物質を出して天敵を呼ぶことができます。
アブラナ科

アオムシにかじられると揮発性の辛い物質(アリルイソチオシアネート)を出して、それぞれのアオムシの天敵の寄生バチを呼ぶのです。
もう少し激しい防御をする植物もある
寄生バチを呼んで卵を産んでもらって、個体を退治していくのも確実ですが、もう少し時短な防御方法をとる植物もあるんですよ。
ワタ

ワタの葉がイモムシにかじられたとき、他の植物と同じようにイモムシの唾液とワタの葉の化学成分で、SOS物質をつくって大気中に飛ばします。しかし、寄ってくるのは寄生バチだけではないのです。
なんと、肉食のスズメバチ(特にアシナガバチが多いようです)が匂いを嗅ぎつけ、直接イモムシを食べにやってくるのです。

アシナガバチはイモムシをかみちぎって肉団子にして巣に持ち帰り、スズメバチの幼虫のご飯にします。
寄生バチのように、体内で卵が育つのを待つより、時短ですね。
トマト

トマトは「毒」のところでも出ましたが、さらに激しい撃退方法も持っています。
これはシロイチモジヨトウにかじられたときの反応です。シロイチモジヨトウにかじられたトマトの葉は、「ジャスモン酸メチル」という化学物質を出します。もちろん、昆虫のタンパク質分解酵素に働きかける、阻害タンパク質ももれなくトッピングしてあります。

これによってトマトはとてもまずく、栄養価が低い食べ物と変化するのです。こうなるとシロイチモジヨトウは、栄養価の高いトマトの葉を探しに移動しなければならなくなります。
でも、それは面倒。そこでシロイチモジヨトウは、身近にいるイモムシと共食いしだすのです。
寄生バチやスズメバチにきてもらうよりも、さらに時短で敵をやっつけられます。(でも、ちょっと過激ですよね(汗))
まずくなって身を守る

先ほどのトマトのところでも出ましたが、自分をまずくしてかじられるのを防ぐあるいは、被害を少なくする方法を取ってる植物もいます。「毒」にもつながるお話ですが、ここではあえて「まずくなって身を守る」としてみてください。
まずいというと、渋み、苦み、辛味などがあります。どれも細胞がこわれることによってそれぞれの化学物質が出ておこる現象です。
渋み

渋みを使って昆虫から身を守っている植物は、チャノキやドングリノキ、カキ、ヨモギギクなどたくさん。渋みの元はタンニンで、強力なたんぱく質凝固作用を持っています。
昆虫の消化酵素を邪魔して消化不良を起こさせ、昆虫が「もう、食べたくない・・」となることで身を守るのです。
苦み

苦みは植物の多くにあるアルカロイド系の味で、少し毒性が強くなります。トマトの章で出てきた緑のトマトに多く含まれる「トマチン」や、日の当たる場所に置いておいて緑色になってしまったジャガイモに含まれる「ソラニン」などがこれにあたります。
ジャガイモのソラニンはそれはそれは苦くて、とても食べられたものではありません。さらに、神経系への信号が邪魔され、脱皮や成長がうまくできなくなることも。昆虫だけでなく小動物でも、ある程度食べれば命の危険も。
辛味

怒っている人に大根おろしやワサビをすってもらうと、すごく辛くなるって聞いたことありませんか?怒りに任せてがりがりと激しくすると、細胞がより壊れて辛くなるんですね。
余談ですが、ダイコンは葉に近い部分よりも、先の方が辛いのをご存じでしょうか?ここはダイコンの成長点なので、かじられたくないということで、辛み成分が多いそうです。
アブラナ科を好んで食べる昆虫は多く、この辛み成分もクリアしてきてしまいます。それに対して植物の方も、じゃあ、これならどうだ!と進化するので、辛み成分をつくるための辛子油配糖体は120種類以上もあるそうです。
仲間に知らせて守る

動かない、しゃべらない植物ですが、自分が危険にさらされたとき、仲間の植物にあるいはまったく関係ない植物へも、SOS物質を出すことが知られています。
実は、植物は聞いたり叫んだりすることもあるなんて、信じられますか?
仲間に知らせる

シロイヌナズナは、昆虫にかじられたときに作るSOS物質(ジャスモン酸)を、隣の他のナズナの葉にある気孔(穴)が感じとります。
その情報は、信号として養分の通道から「今、かじられてるー!」「敵がきたぞー!」と全体に流れて、別のシロイヌナズナも全身から、虫が嫌がる物質を作っていることが分かっているのです。

シロイヌナズナはそれだけではなく、かじられている音を聞いています。こちらも正確にはかじられている振動に反応するのです。
害のない他の虫が歩いているだけでは反応しないのですが、かじられている音(振動)を聞くと、他のシロイヌナズナも共に、それ以上食べられないように、辛味の成分が多くなります。
ジャスモン酸とは?
昆虫にかじられたり、病原菌に感染したりしたときに、働く防御ホルモンの一種です。植物をまずくしたり、病原菌に対する防御物質をつくったりして植物を守っている、とても大切な成分で、いろいろな植物に含まれています。かじられたり感染したりした箇所だけでなく、植物全体から放出され、周囲の別の植物も防御反応をはじめて身を守ります。
悲鳴を上げる

芽を出したところから動かない、しゃべらない植物が悲鳴をあげるなんて、ちょっと信じられない話ですよね。でも、実際に研究された方がいるようです。
トマトやたばこの葉を傷つけたり、異様に乾燥させたりなどのストレスを与えると、悲鳴を上げる、正確には超音波の音を出します。

超音波なので人間の耳には聞こえませんがその音を調べると、今、その植物がどういう状態なのかわかります。トマトやタバコだけでなく、他の植物でもあるそうです。
当然その音を聞いた他の植物も、身構えて食べれられないように防御をはじめます。
ここで、音に関する寄り道話を一つ。

マツヨイグサ属の植物は、花粉を運んでくれる虫の羽音(振動)を聞くと、数分のうち(だいたい3分くらい)に、蜜の濃度が12度から17度だったのが、一気に20度までアップしたという話もあるそうです。生き残るのに手段は選んでいられない、ということでしょうか。
かじられる、吸われるなどの刺激を受けてから発動する防御を、「誘導防御」といいます。それに対していつも防御体制をとっているものが「恒常防御」です。
いつでも準備OK

昆虫にかじられたりしてから発動するのを誘導防御と書きましたが、ここでは恒常防御の種類をいくつかご紹介しますね。
物理で防ぐ
トゲや毛(トライコーム)で、実を守るのを物理的防御といいます。
トゲで守る

トゲで代表的なのは、新鮮なキュウリ、ナスのへたなどで、キッチンで「痛っ!」ってなった経験がある人もいるでしょう。
このトゲはまだ種が熟していないものを守ろうとしているのです。
私たちが食べているキュウリもナスも、種はあるものの植えたら芽がでるほど熟してはいません。
キュウリはウリハムシやヨトウムシ、ナスもテントウムシダマシやカメムシなどにこのまま食べられたら子孫が残せないから、トゲで守っているのです。
毛(トライコーム)で守る

毛(トライコーム)で武装しているのは、すでに常連になっているトマトやシロイヌナズナ、ワタやタンポポ、タケノコなど、他にもよくみてみるとかなり多くの植物があります。
この毛はアブラムシやダニなどの、小さな虫が付くのを防ぐ働きをしているのです。毛が硬い場合はかじられるのを防ぐこともできますし、中にはシロバナマンテマのように、毛に粘液を作って虫が動けなくなるようにしている植物もいます。
葉をかじる昆虫の卵を産み付けられないようにする働きもありますね。

それでも、ヨトウガなどはお構いなしにむしゃむしゃとかじりに来ますが、トライコームが強ければ、栄養を全草にいきわたらせるために大切な、葉脈まではたどり着けないこともあるのです。
化学で防ぐ

先述していますが、やはり化学で武装となると代表は「毒」ですね。この場合は「香り」が虫にとっての毒となります。
実は、ローズマリーやバジル、ラベンダーやミントなどの香りの中には、虫には毒になり嫌がる化学物質があります。こういった香りを出す植物はなにも、人間をリラックスさせるために香りを作っているわけではないのです。

虫が嫌がる香りは身近なもので言うと、蚊取り線香でしょうか。蚊取り線香には蚊が嫌がる「除虫菊」という植物が使われています。
また、園芸家の間で重宝がられるのはマリーゴールドです。マリーゴールドは見た目もゴージャスで素敵な花ですが、かなり強力な虫よけ効果があります。それだけでなく、なんと、アブラムシの天敵のテントウムシや、コナジラミの天敵のヒメハナカメムシを呼んでくれる効果もあるとか。頼もしいですね。

ナス科のトライコームにも、葉や茎をかじる昆虫の天敵となる虫を呼ぶ、揮発性物質が含まれています。ハンスモンヨトウがトマトの葉をかじると、その匂いをシロイヌナズナがキャッチし、自分の方に来ないような、虫が嫌がる物質を作るのです。
動かない、しゃべらない植物は、実はとても合理的なシステムを作っている、寡黙な化学者なのかもしれません。
だまして守る・守らせる
植物の中には、擬態して昆虫をだまして身を守る種類があります。また、他の昆虫に守ってもらうという方法を編み出した植物もあるんですよ。
トケイソウ

トケイソウはいろいろな種類があり、パッションフルーツがなるクダモノトケイソウもあります。花が時計に似ているのが名前の由来です。
昆虫が偏食家なのは前述していますが、トケイソウだけを食べるドクチョウ亜科の仲間が、何種類かいます。トケイソウもしっかりと毒で武装はしているのですが、このドクチョウ亜科の仲間はその毒をものともせず、トケイソウを食べに来ます。

そこで、トケイソウはドクチョウ亜科の性質を考えた。
卵がたくさん産まれて幼虫がふ化すると、餌が足りなくなって幼虫同士が共食いをすることがあります。そのため、ドクチョウ亜科の成虫は、卵が先に産み付けられている場所を避けて産卵します。だったら、卵っぽいものをくっつけておけばいいんじゃない?と。
一部のトケイソウは葉や葉の付け根に、黄色い卵のようなものを付けています。これを見たドクチョウ亜科の成虫は、あ、誰か先に産んでるから他を探そう、と飛び去ってくれるのです。

しかし悲しいことに、ドクチョウ亜科の成虫は目がいいからこの技が効くのですが、ヨトウガやアブラムシには効かない手なんですよね。
イタドリ

イタドリの敵は葉を食べる昆虫幼虫や、汁液をすって枯らしてしまうような昆虫がいます。もちろんイタドリもシュウ酸やタンニンなどで武装はしていますが、何種類かの昆虫が食べにくるのでなかなか毒だけでは間に合いません。
そのためイタドリは、葉の付け根から蜜を出すことにしました。その蜜を食べにアリが来てくれるのです。それだけでなく、アリはイタドリを食べにきた昆虫や幼虫などを食べてくれるので、イタドリにとってアリはア〇ソックみたいなものです。
アリにしてみたらただ蜜を食べに来ているのに、他の昆虫が邪魔なだけなんですけどね。

東南アジアにはさらに上手の植物、マカランガがいます。この植物は自分の茎の中を空洞にして、アリに住んでもらっているのです。しかも、このアリは家の中でカイガラムシを養殖して、カイガラムシからも栄養をもらっています。
そして、マカランガにまとわりつく、つる植物のつるをかみ切ったり、邪魔な葉をカットしてくれたりするので日の光もよくあたり、マカランガはすくすくと成長できるのです。アリにとってみたら、ただ、自分の家の掃除をしているだけなんですけど。

この三角関係は1000万年前から関係がはじまったとされ、今では切っても切れない関係なのだそうです。
植物と昆虫のいたちごっこと駆け引き

こうやって見てくると植物と昆虫は遠いむかしから、トケイソウやイタドリのように、食べられないように毒やトゲ、毛や天敵の昆虫などで武装したり、その知恵をくつがえして食べられるように自分の体を変化させたりと、永遠にお互いを研究し続けているように見えます。
まさに、いたちごっこ。最後に植物と昆虫の駆け引きのお話しをします。
クワVSカイコ

カイコはクワしか食べない昆虫で、養蚕は中国から弥生時代に伝わってきたと言われるほどの歴史があるのです。
カイコは他の植物を食べると、栄養失調や消化不良、その植物の毒などで死んでしまいます。
そんなカイコはクワからしてみたら、敵なんですよね。食べてほしくない。それでもカイコはクワを食べなければ死んでしまうので、どうしても食べたいのです。

クワはカイコにかじられるとカイコの命に係わる危険な匂い、エリシターを発動しますが、なんとか出さないでほしい。ということで、カイコはある酵素を体の中で作りながら、クワを食べることにしました。その酵素の働きで、エリシターが抑えられるようになったそうです。
ヘクソカズラ

この凄い名前の植物は名前負けしないくらいの、とても強力な臭い匂いを持っています。(漢字でかくと屁糞葛)それこそがヘクソカズラの防御方法の一つです。
多くの昆虫の幼虫やアブラムシなどは、かじったとたんにとんでもない匂いが口中に広がるので、嫌がって食べようとしません。どんな匂いか私も嗅いだことがないので、調べてみると名前の通りの匂いとか、腐った卵とか、足の・・・のような匂いらしいです。
それなのにこの匂いをものともせず、食べにくる昆虫がいます。
ヘクソカズラヒゲナガアブラムシや、ホシホウジャクの幼虫です。ホシホウジャクの幼虫は、好んでヘクソカズラを食べに来ます。ヘクソカズラヒゲナガアブラムシにいたっては、ヘクソカズラの汁を吸って成長するため、体の中にこの匂いをため込みます。

アブラムシを食べる益虫というとテントウムシですが、このアブラムシの場合はあまりにも臭いのでテントウムシも寄り付きません。
普通のアブラムシは天敵から身を隠すように、葉や茎と同じ緑色をしていますが、このアブラムシはなんと、オレンジとピンクを足したような体に黒い足をしているのです。緑の葉の上では目立ちすぎますが、臭い匂いをまとっているので、食べられない自信があるのかもしれません。

この勝負、現在はヘクソカズラヒゲナガアブラムシの勝利のようです。さて、ヘクソカズラはこの虫たちに対して、次はどんな進化で対抗するのでしょうか。
ジャコウアゲハ

すごい匂いの話をしたので、最後はキレイにアゲハチョウのお話をしましょう。
アゲハチョウはミカンの木やサンショウの木、キンカンの木のあたりをひらひらと舞っている印象があります。実際、柑橘系の植物を好んで食べる種類が多いですが、チョウの種類によっては、セリ科だったりクスノキ科だったりと多様です。
私も観葉植物としてミカンの葉をベランダで2鉢育てていますが、昨年1鉢に1匹ずつアゲハチョウの幼虫がついていて(たぶんナミアゲハ)、ものすごいスピードで丸坊主にされてしまいました。一応、蛹になるまでそっとしておきましたが、ちょっと悲しかったです。(今年は室内です)

どの植物もアゲハチョウ幼虫対策として、それなりの毒や忌避物質を持ってるので、他のアゲハチョウ幼虫の体内には、多少なりとも毒素が残っています。しかし、アゲハチョウ幼虫は体内の解毒酵素で無毒化して、葉を食べ続けているのです。
そのなかでも、ジャコウアゲハは抜きに出て強かで賢い生き方をしています。
ジャコウアゲハ幼虫が食べる植物は、ウマノスズクサです。このウマノスズクサの持つ毒は「アリストロキア酸」という猛毒です。

この毒は人間に対しても影響があるほどの強い毒性を持っていますが、ジャコウアゲハ幼虫はこれをものともせず好んで食べます。好んで食べるだけでなく、解毒せずに蛹になっても成虫になってもこの毒を持ち続けています。
たぶん、ウマノスズクサは進化の最中に苦労してこの毒を作り上げたのだと思いますが、作る苦労をせず、ちゃっかりいただくのがジャコウアゲハです。
そして、卵を産む時にジャコウアゲハは、この毒を卵とその周辺に塗っておくのです。そうするとふ化したジャコウアゲハ幼虫はまず、毒付きの卵の殻を食べてからさらに、ウマノスズクサの葉を食べて、毒を補充していきます。
アゲハチョウや幼虫にとって鳥は天敵です。幼虫は食べられないように植物と同じ色をしていて、葉を食べるときは裏側から、あるいは暗くなってからと用心して食べます。

ところが、ジャコウアゲハの幼虫は毒を持っているアピールをするために、黒に白い帯、赤い斑点模様をしています。そのため、昼間でも堂々と葉の表で食事を楽しんでいます。
子が子ならその親も親。ジャコウアゲハは黒い羽に赤い斑点模様を持ち、体もオレンジに近い赤色をしています。優雅にゆっくりと飛ぶのは、私ジャコウアゲハよ、毒、持ってるのよ。食べられないでしょ?とアピールしているからです。
ウマノスズクサからしたら憎らしいチョウですが、キレイで強かな悪役令嬢に感じてしまうのは私だけでしょうか。

まとめ
葉をかじられたら黙ってないで、反撃する植物と、それでもなお食べ続ける昆虫たちの攻防のお話をしてきました。
植物は昆虫に対してどのように防御するのか、植物の防御方法にはどんな種類があるのか、いろいろと面白い世界でしたね。
実はまだまだ、植物の個性的な昆虫の防御方法もあるのですが、それはまた、別の話で。
普段、何にも言わずじーっとたたずんでいる植物の意外な反撃方法や、強かに食べ続ける偏食家の昆虫たちの世界が、思いのほか私たちの近くにあるんですね。
植物を見る目が、今までと少し違ってきたら面白いなと思います。
※このテーマには続きがあります。
「植物はきょうもサバイバル あまりにも多い敵と交渉中」現在公開中
「植物と動物 できるだけ遠くへ運んでください」現在執筆中です。公開までお楽しみに。
「植物と植物 光、水、土、誰のもの?ときどきパラサイト」現在準備中です。しばしお待ちを。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
質問や感想、ご意見などございましたら、お問い合わせフォームからメッセージをお願いします。
では、またのお越しをお待ちしております。
ひがんばな


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